ペケペケ男

— Present By —

じいま

 

 

 

「さくらさん、大変です!」
秋穂の慌てた声が、スマートフォンから聞こえてくる。
もしや秋穂に一大事が発生したのかと、さくらはベッドから跳ね起きた。
「どうしたの秋穂ちゃん!」
寝起きにもかかわらず同じテンションで返事をすると、秋穂はさらに声を高くして、
「李君が、大変なことになりそうなんです!」
「ええ?小狼くんが!」
「はい!李君が大変だから早く教えてあげたほうがいいと!海渡さんが!」
「ほえええ!ありがとう!海渡さんに、お礼を!」
「わかりました伝えます!お気をつけて!」
「うん、わかった!」

 

さくらはぽちっとスマートフォンの通話終了ボタンを押した。大変だ、小狼に早く伝えなければ。すぐにまたスマートフォンを握りなおし画面を押す。1コールで小狼がはいと出た。
「あのね秋穂ちゃんから電話があってね、李君が大変だから教えてあげてって!」
「わかった」
「軽っ!ほんとうに、わかった?」
「心配してくれてありがたいんだが」
「はい」
「もう遅い」
「ほえ?」
「油断していた。術にかけられてしまっているようだ。さっきから何度も解除法を試しているけどできない。だが、呪文は視えた。どんな術かもわかったし1日だけの効力という記述があったから、今日やりすごせば何もなかったように解けるはずだ。だから、心配するな」
さくらは絶句してスマートフォンを落としそうになった。
「ええっ……小狼くんが術に……でもでも、1日だけなんだね?」
「ああ」
「どんな術なの」心配そうに聞くと小狼は、一瞬言葉に詰まった。
「そ、それは」
「もうわたし、小狼くんが怪我をするとか、痛い思いをするのは、やだよ?」
さくらは、さらに心配そうな声を出す。
「大丈夫だ、そういうのじゃないから」
安心しろと言うが、さくらは、隠さないで言ってほしいと食い下がる。とにかく、小狼は誰にも内緒で辛い思いをするのが癖のようなものだとさくらは思っているので、問い詰めるつもりはなくても、はいそうですかと電話を切る気にはなれないのだ。
「それは……」
「うん!なあに?」
「お、おれがかけられた術は……」
「うん!」
「……ラッキースケ……ベ……の……術」
「……うん?」
へんな名前の術だ。ラッキースケベの意味も小狼のうろたえる理由もさくらにはよくわからない。小狼は、気にするな、命にかかわるものじゃないから、とやや一方的に電話を切った。

 

確かに「ラッキー」という言葉は幸運をさす良い意味だし、「スケベ」というのは多分エッチなことだから怪我をするようなものではなさそうだ。でもこのふたつがつながった言葉の意味はよくわからない。少し考えてさくらは、奈緒子にメッセージを送った。
朝の挨拶と、先日見せてくれた自作小説のお礼を言い、最後に、ラッキースケベって何のことかな?とさりげなく(つもり)尋ねてみた。すると数秒後に返信があり、奈緒子は画像をたくさん貼ってきた。さくらはあまりの早さに奈緒子の興味しんしんの顔を思い浮かべつつ、早速お礼を伝えひとつずつ画像を開いてみた。それは少年漫画のとあるシーンをいくつかよりぬきしたもので、その10枚ほどの画像を見た時に、さくらはその言葉の意味を正確に理解した。さすが奈緒子だ、検索して言葉で説明されるよりも100倍わかりやすい。しかし、感心している暇はない。
「この漫画の男の子に起こることが、小狼くんに起きるってこと?」
だとしたら、ラッキースケベの術というのはなんていうふざけた術なんだろう。こんな術をかける魔法協会というのは一体どんなひねくれた人間の集まりなのか。1日だけしか効かないけれど解けはしない術なんて、ただの嫌がらせだ。さくらはすごく憂鬱な気持ちになり、眉毛をむむむと寄せクッションを抱き締めた。

 

***

 

家にずっとひきこもっていればやりすごせるという訳でもないらしい。
術は夜明けと共に発動したらしく、換気のために少しだけ開いていた窓からいきなりひらひらと女性の下着が部屋に舞い込んできた。なぜ?早朝の唐突な現象に小狼が首をひねっていると、ピンポンと鳴ったモニターにセクシーな薄着の女性が困った様子で映っている。落とした下着がそこにあるなら部屋に上がらせてほしいというので、迷いに迷って小狼は、じゃあ自分は屋外の通路に出て待っているから勝手にどうぞと女性を中に入れると、急に持病がと倒れ心配してかけよった小狼におなかをさすってほしいというので即効で救急車を呼んで(色んな意味で)事無きを得た。
この一連の不自然な騒動で術にかけられていることを確信した。
テレビを付ければ、実況中の天気予報のお姉さんのスカートがめくれるし、電話に出れば間違い電話でごめんなさいと謝る女性が、今日は暇なのかとネコのような声でしつこいし、普通の男にとってはラッキーなのかもしれないが、小狼にとってはただの厄災である。
どうしたものかと腕を組んだ瞬間、さくらから電話があったというわけだ。
(あの人……今ごろ絶対、笑っているだろうな)
秋穂の執事のすかした佇まいを思い浮かべながら、まだ李家にちょっかいをかける術者がいるのか、どうしてあの人は止めてくれないんだ、と小狼が頭をかかえていると、再びピンポンとインターフォンが鳴ったので、うんざりしながら次は誰だとモニターを覗くと、さくらだった。

 

「なぜ来たんだ」
はっきりと、今日はおれに近寄るなと言えばよかった。
小狼は眉根を寄せてさくらに問うと、さくらは玄関先でしばらく押し黙ってスカートの裾を握り締めている。小狼は、あっと声を上げた。いけない、ここだと突風が吹いてさくらのスカートがめくれてしまうかもしれない。
「中に入れ」
とあわててさくらを招くと、ドアが閉まるや否やさくらは小狼にぎゅっと抱きついた。
「お、おい」
「だって……やだよ」さくらが小狼のTシャツに顔をうずめてもごもご言う。
「何が」胸に飛び込んできたかわいい恋人に触れていいものかどうか迷っていると、さくらは顔を上げた。
「他のひととすけべなことして『ラッキー』だなんて、やだ!そういうのは……全部、わたしとしてほしい……!」
言い終わったとたん、ボッと湯気が出るほど赤面し「ほええ言っちゃった」とまた胸に顔をうずめる。小狼は、思わず天を仰いだ。これはきっとそうだ。憧れの、あれだ。
さくらの嫉妬、さくらの独占欲。対象:おれ。
こんな時なのについ胸がじーんとする。
「嫌じゃないのか、どんなことが起きるかわからないんだぞ」
と理性に仕事をさせれば、さくらは、
「だいじょうぶ!でも……逆に小狼くんこそいやじゃないの?」
わたしと、すけべなこと、しちゃうの……いやじゃない?とまたまた可愛いことを言うので、「すごくラッキー、だと思う」ときっぱり答えると、さくらはまた頬を赤くし、えへっと嬉しそうな笑顔を向けた。

 

「宿題持ってきたんだ」
とさくらはリュックを下ろして中をごそごそ探す。とても良い。学生はやはり勉強をすることだ、勉強とスケベはかなり離れたところにある気がして、小狼は、さくらが勉強道具を出すのを嬉しいような少しだけ残念なような気持ちで眺めた。
「わからないところ、教えてもらえるかな」
「あ、ああ、もちろん」
「ありがとう」にこっ。
うーん、かわいい。かわいいが、これはラッキースケベではなくて、ただのさくらの通常運転の可愛さだ。小狼は目を細めて、「じゃあ飲み物を準備する」と腰をあげると、「お手伝いするよ」といつものようにさくらがキッチンにくっついてきた。
さくらがとても可愛くて自分のそばにいてくれるのは、本当に幸せである意味ラッキーなことなのだから、さくらと居れば、これ以上の術の発動は無いのかもしれないな。小狼は、急に恋人と過ごせることになった日曜を喜んだ。
「これを運んでくれるか」
アイスレモンティを注いだグラスをお盆に載せていつものようにさくらに渡すと、うん、といつものように受け取ったその瞬間。
バシャン!
「ほええっ!!」
「な、なんで?」
倒れようもない寸胴のグラスが、いきなり倒れてさくらの服を濡らした。
「ごめんなさい、わたし」
「さくらのせいじゃない、おれのせいだ。これで、まず濡れたところを拭け」とあわててタオルを渡そうとして、小狼はうっとうめき声を上げた。
「ここ、すぐに拭くね」
と自分よりも床にこぼれた液体の方を気にして、すっとひざまずいたさくらのブラウスが透けて肌にべったりはりついているのだ。今日はそんな下着を着けているのか…と瞬時に思ってバカ!と自分を戒めた。その様子で事態に気付き、さくらは「きゃっ」と小さく悲鳴を上げて胸元を手で覆った。小狼は、さくらを直視しないように横を向きながらタオルを突き出した。
「だ、だから、自分の方を先になんとかしてくれ」
しかし小狼の手はタオルと共に、むにっとやわらかいものに埋まった。はっとして視線をやると、さくらはいつの間にか立ちあがっていて、ちょうど小狼の手はさくらの胸のストライクどまんなかにめりこんでいた。
「ご、ごめん!」
「……ううん、タオルありがとう」
なんという術の力の強さだ。強引すぎる。小狼は、ラッキーよりも、さくらが気の毒でやはり今日はそばにいないほうがいいと判断した。その瞬間、
「やっぱりおれから離れろ、とか、言わないでねー?」
と浴室からさくらの声がする。小狼は察しのよいさくらに苦笑いしてため息をついた。

 

「平方根同士の掛け算は、中の数字をそのまま掛けたらいいんだ」
「そこまではわかるんだけど、その後どうしたらいいの?」
「このなかからペアになる数字を抜き出して…」
蓋のあるペットボトルは倒れても中身がこぼれないから良い。飲んだらすぐに蓋を締める。ブラウスの濡れた部分は洗ってドライヤーで乾かしたのでもう何の問題も無い。さくらが集中して数学の課題を解いているその横顔を見て、小狼はまた可愛いなと思った。苦手なことをがんばるさくらは本当に偉いしかわいい。
「あっ、九九を間違えちゃった…はうう恥ずかしい」
さくらが慌てて消しゴムを探す。自分の使っている消しゴムを貸してやろうと机の上に転がっているものをつまむと、消しゴムが唐突に小狼の手からすべってポーンと飛んだ。
「は?」
生きているように飛んだ消しゴムを見失い焦った小狼は、どこだ?と周囲を鋭く見渡した。するとさくらが、「ここだよぉ」と小さな声で言う。見ると、さくらは脇を締め、両方の上腕をぎゅっと胸によせている。そうしてできあがった谷間に、ちょこんと小狼の黒い消しゴムが鎮座していた。小狼は後ろにのけぞった。
「ううう、ブラウスの中に入っちゃいそうで……!」
寄せた胸の谷間に挟まれた消しゴムと、服の中に入った消しゴム。これは、どちらがよりスケベなのだろう、と小狼が硬直したままどうでも良いことを考えていると、「早く取って?」とさくらが恥ずかしそうに言うので、わかった、と手をのばし慎重にさくらの胸を触らないようにそっと消しゴムをつまみあげる。むしろさくらの下着の中に入らなくてよかった。小狼は長い長い息を吐く。思ったより手強い術ではないのか……と消しゴムを握り締めると、
「あ、あの、小狼くん、勉強の続きしよ?」
とさくらは上目に小狼を見る。どうやら気を遣わせているようだ。それを無駄にしないように、そうだな、とまた教科書に視線を戻し、ため息をついた。

 

「もう解くものなくなっちゃった」
「腹も減ったな」
「おでかけする?」
さくらが目をキラキラさせて小狼を見た。
「危険だ」
「でも小狼くんと一緒なら」
「一緒だから危険なんだ」
「でもでも、小狼くんがひとりになったら、また知らない人からすけべされちゃうよう」とさくらは涙声で小狼の手を握る。
うーん、と小狼は頬を赤くしてうなった。確かに、ずっと家に居て勉強だけをするのは酷なことだ。ひとつくらいさくらの望みを叶えてやりたい。
「見て見て、ここのお店のホットケーキ美味しいんだって!きっと小狼くんも気に入るよ?」
ほらふわふわしてるよ、とスマートフォンの画面を掲げてアピールするさくらの必死さにほだされ、つい小狼は、わかった、行こうといってしまった。軽率だったかと即後悔したが、「やったあ」ぴょんと跳ねる彼女を見ると、ついつい頬を緩めてしまう小狼だった。
「じゃあ、少し遠いが、歩いていくか」
「うん、お散歩も楽しいもんね」
こうして二人でマンションのエントランスを一歩出たとたん、小狼は顔をしかめた。風だ。なぜこんなに風が吹いているのだ。しかし今朝テレビで見た天気予報を思い出す。これは術ではなくただの天候だと思いたい。もしも天気まで左右できる術となると、本当に何が起きるかわからない。
「どうしたの、難しい顔をして」
さくらはおでかけにうっきうきで、小狼のまわりを跳ねるようにうろうろしている。するとそのたびに、さくらのスカートがふわりふわりと浮くことに気付いた。さくらは小狼の視線に気付いて、正面にぴょんっと両足で立った。
「もしかして、スカートのことを心配してくれてる?」
と顔を覗き込まれ小狼は、ああ、いや、と口篭る。
「だいじょうぶ!実はいつもね、ちゃんと履いてるんだよ、黒スパッツ」
さくらは周囲に人がいないことを確かめてから、ほら、と右に腰を突き出してスカートをぺろんとめくってみせた。小狼は、「なっ!」と叫び口を抑えた。
「ね?見えてもへいきだよ?ズボンのようなものだも…ふあああ!」
さくらはめくったスカートをバッと下ろした。二人で顔をまっかにしたまま往来で立ちすくむ。
「わ、忘れていたのか」
「え、ううん?あれっ?なんでかな、確かに履いたんだけど、今朝、ほんとに……」
黒いスパッツなどどこにも無くて、さくらのスカートの下は、まぶしい太ももと、白いレースの下着が存在するだけだった。ふーっと小狼は息を吐いた。誰もいなくてよかった。
「とにかく、そういう状態のようだから…気をつけてくれ」
「わ、わかった。びっくりさせちゃってごめんね」
「謝ることはない、びっくりはしたが」
「が、なに?」
「なんでもない!」
小狼は、さくらの手を握り、自分の傍に寄せた。これは術なのか、さくらのいつものぽややんなのか判断がつきかねる。でもとにかく、白いレースの下着が目の裏にやきついて、小狼はそれを消し去るように足を進めた。

 

「ホットケーキは今日やってなくて……ごめんなさい」
さくらはしょぼんと肩を落とした。小狼が「ほかに何ができますか?」と尋ねると、
「クレープも人気で、よく出ますね」と店員から返ってきたので、さくらもまた表情を明るくして、「何味にしようかな?」とメニューを覗いてきた。
屋内はほかの客で混雑していたので、屋外のテーブルに座る。他人が大勢いるところで術が発動するのは困る。小狼は、運ばれてきたチョコバナナクレープを目の前にして幸せそうなさくらを見守りながら、そう考えた。
「はにゃ~んおいしそう!」
「そうだな」と小狼も幸せな気持ちになり、自分の注文した抹茶プリンをひとくちつるんと食べた。
「はわわわ、見て見て、クレープの中にアイスも入ってるよ?」
「豪華だ」
「うんうん」
にこっと笑って嬉しいことをいちいち報告するさくらが可愛い。クレープを左手に握って、右手のスプーンで生クリームやバニラアイスの部分をもくもくと食べている。小動物のようだが、こんなに可愛い小動物はいない。小狼もプリンと、その横に盛り付けられたアイスクリームをひとくちずつ食べていた。が、風が直接当たるせいで、アイスがどんどん溶けてきた。スプーンの動かすスピードを速めて口に運ぶ。ふと、さくらの方を見た小狼は、肩を震わせ目を見開いた。少し上を向いて苦しそうなさくらの口の中は白いアイスクリームで一杯になり口の端からはひとすじの白い液体が垂れているではないか。溶けそうだからあわてて全部をほおばったらしい。
「大丈夫か?」
「ひゅめはくへ…」
「しゃべらなくていいから、飲み込め」
「はひ……」
誰にも見られなかっただろうか、小狼は、ビニールの小袋を破り、白い紙でさくらの口のまわりを急いで拭いてあげた。
「ありがと、冷たくてなかなか飲み込めなかったの」
えへへっと笑うさくらはいつもの天真爛漫なさくらで、さきほど一瞬のエロスに満ちたあの表情は夢だったのか?
「はあ……びっくりした」
「ほえ?」
これまでのラッキースケベと違って、今のはやばかった。スケベというよりエロだ。笑えない。小狼は、身体の奥に熱い炎が生まれたことを感じ、それを消すような勢いで冷たい水を飲み、さくらにそろそろ出ようと促す。
「次はお買い物だね」
「ああ」
小ぶりのショコラ色のバッグを手に椅子を立ったさくらが、小狼の前を通り過ぎようとして「わっ」と突然よろめき、反射的に手を差し伸べた小狼の膝の上にすとん、と座った。ぷりん、という感覚が小狼のふとももの上で弾む。なぜだかスカートが上手くめくれてさくらのおしりが直接小狼の股間の上に乗っている。抹茶プリンを食べたあとは、さくらぷりんか……この刺激に、消したはずの炎が勢いを増した。
「……くん、小狼くん!」
さくらから呼ばれハッと正気に戻る。
「もう大丈夫だから、離して」
赤面したさくらからそう言われ自分の腕を見ると、がっちりさくらの腰をホールドしている。これはラッキーじゃなくて強制だ。
「だああ!ごめん!」
小狼は手を挙げてガタッと立ち上がった。
「ほええっ」
さくらがその勢いで前につんのめる。小狼はとっさにさくらの手首をつかみ、くるっと身体を反転させた。地面はざらざらしたタイルだ、さくらの膝や手を怪我させてしまう。小狼は自分が下敷きになり、さくらの身体を支えた。……はずだった。
「だいじょうぶか、すまな…」
胸元で受け止めたはずのさくらはそこに居ず、かわいそうな彼女はなぜか小狼の腰に抱きつくように前向きに倒れ股間に顔をうずめていた。
ずくんと何かが小狼の中で刺すように熱く疼いた。
さくらを慌てて起こそうとしたが、先ほどもこのパターンで事態は悪化したではないか、落ち着け、と自分に言い聞かせて深呼吸をする。それからさくらに向かって手を伸ばそうとすると、その前にさくらは自分でむくりと起き上がった。無言だ。やばい。
「さ、さくら……?」
これはもうさすがに気分を悪くしただろう、青ざめた小狼は、自分の膝の上にペタンと座るさくらを下から覗き込んだ。さくらは、小さな声で、ごめんなさい……と呟き、ぽーっとしている。ん?と小狼は首をひねった。頬をほんのり染めて、小狼の足の上から立ち上がろうとしない。立てるか?と恐る恐る聞くと、あ、うん、だいじょうぶ、とスカートの形をなおしながらゆっくり立ち上がった。小狼はほっとする。植え込みの陰になっている場所で誰からも見られなかったのが幸いしたが、本当にもう人のいないところに居るのが今日は良さそうだ。さくらにそう話すと、
「うん、もうずっと小狼くんのおうちに居よ……?」
と小首をかしげたその様子がなんだか艶っぽくて、小狼はまた腹の奥が熱くなった。

 

帰り道、それはそれでまた大変だった。
やはり風が強く吹く道をさくらは注意深くスカートを抑えながら歩いていたが、そこに都合よく風船が現れ目の前を横切ろうとして、さくらは魔法札捕獲者だからか知らないが反射的に手を伸ばし風船の紐を握ればスカートが待ってましたと下からふくれあがる。
「やめてくれ!」と悲痛な叫びを口にして小狼がそのスカートをさくらのかわりに抑えようとするとタイミングがずれてなぜかスカートの中に頭をつっこみ、さくらのおしりに抱きついてしまう。きゃああああとパニックになったさくらがその小狼の頭をスカートの上からおさえこんだので、小狼は至近距離でさくらの白いレースの下着を見た。
「うわあああ」
と叫び、ぴょーんと背後に飛んでアスファルトにぺたんとしりもちをつくと、どこかから小さな子どもと母親が現れて「お姉ちゃんありがとう」とさくらから風船の紐を受け取って去ってゆく。本当に、なんなんだろう、このラッキースケベの術のしつこさは。

 

やっとの思いで小狼のマンションに戻ってきたら、エントランスの直前でふたりの目の前にみゃあと小さな黒い猫が現れ、ぴょんと植え込みに消えた。よせばいいのに、さくらは待ってえとその猫を追いかけて、植え込みに頭をつっこんだところ、案の定、前にも後ろにも進めなくなり、植え込みからさくらのおしりだけが出ているという、インターネットの広告でよく見るアレの光景になっている。
「たしゅけてえ」
とくぐもった声の聞こえるおしりに近づき、なぜかキレイにめくれあがっているスカートを破かないように慎重に枝から外した小狼だが、さきほどから何度もこのぷりんとしたさくらのおしりがもたらすラッキースケベは一体何をおれに伝えようとしているのか。と、ただのスケベなのに哲学的な示唆を得ようとさくらのおしりを束の間真面目に注視した。が、はやくう、ともじもじと動くさくらの白いレースと白いおしりが小狼の思考を即刻破壊した。下着が微妙にずり下がり、股間のほうでたわんでいる。このまま下着に手をかけて一気に下におろしたらどうなるんだろうか、と一瞬だけ想像して、あまりのエロさに自分で引いた。ぶんぶんと高速で頭を横に振ると、ささっとスカートを下ろしてさくらのおしりをがっちり覆って隠すと、枝を手でぱきぱきと抑えてさくらをひっこぬいてやった。
「うわあん、ごめんなさい」
こんな時なのに、なぜか身体が勝手に動いて猫ちゃん追いかけちゃったのとさくらは頭と首のまわりを葉っぱだらけにして小狼に謝るので、小狼は罪悪感が頂点に達した。
「いいんだ、謝るな。全部おれが悪いんだから……」
ずーんという沈みきった気持ちは、もうさくらの手を握る気にもならない。小狼は、とぼとぼとマンションのドアの鍵をあけ、さくらを中に入れた。そうだ、朝の時点で選択を間違えたのだ。
「さくら……やっぱり今日は帰ったほうがいい」
とドアを背にして、さくらに言った。さくらは目をみひらいて、振り向いた。
「え……?」
「おれの考えが甘かった。こんなにさくらが酷い目にあうなんて、予想以上だった」
本当にこの術は容赦なく発動が続く。殺傷力こそないものの、なんという地味に大きなダメージを与える恐ろしい術なのだろう、と小狼は思った。しかもかけられた小狼ではなく、傍にいる人のほうが傷ついてしまうという極悪非道な術だ。
「や、やだ」
さくらは小狼にとびついた。
「こら、またそんなことをすると、術が…!」
小狼がさくらを引きはがそうとすると、さくらは
「ラッキーじゃなかった?小狼くんはいやだった?」
と強い力で小狼の背中に回した腕を放さない。
「さくら……」
「わたしは、恥ずかしかったけど、でもこれが小狼くんにとってラッキーなのだったら嬉しいなって思ってたよ、小狼くんが喜んでくれることがわたしに出来て嬉しいなって、だって」
さくらが顔を上げると、小さな葉っぱがハラリと落ちた。
「だって小狼くんはわたしの一番好きなひとだもん……」
小狼はぽかんとした、さくらがそんな風に考えてくれるなんて。天使か?ラッキースケベを人にあげられて嬉しいだなんてそんな考え方がこの世に存在することが信じられなかった。さくらという存在がもう奇跡だ。小狼は、思わず目を細めた。
「ありがとう、さくら……そう言ってもらえると救われる」
さくらは小狼の胸に顔をうずめて、それに、と小さい声で言った。
「どうした?」
と小狼が首をかしげると、
「……わたしも実は。らっきーすけべ、いただきました……」
そう耳を赤くして告白したかわいい恋人は、何を言ってるんだろう。
「うう……あのね、小狼くん、近づくたびにもうずっと良いにおいがするんだもん、ドキドキしちゃう……赤面したお顔がかわいいし……あと、からだね、小狼くんのからだはセクシーだって自覚したほうがいいよ……おなかがチラって見えた時とか、わたしなんだか爆発しちゃいそうだった……」
恥ずかしそうにそう話すさくらの吐息が、小狼の胸を熱く湿らせる。
カーンと。押さえつけていたものがひろがり、張り詰めた音がした。さくらは、本当にもう。いつもこんなにかわいいことを言っておれを感動させてくれる。勝った、と小狼は思った。魔法協会の一族は李家への嫌がらせでしかけてきたのだろうが、見ろ。こんなにおれは幸せになっている。お前たちの負けだ。
小狼は、さくらをぎゅうっと抱きしめ返した。
「もう帰れっていわない?」
「ああ、居てほしい」
「よかったあ」
「ありがとう、さくら」
「ねえねえ、わたし良いこと思いついた」
「なんだ?」
さくらは、背伸びをして小狼の肩に手をかけたので、小狼はかがんでさくらの囁きに耳を傾けた。そして言った。
「天才だ」

 

***

 

小狼とさくらは、ソファに並んで座りテレビをつけた。
風はさらに強まって警報にかわりました、とニュースキャスターが言っている。小狼はうつむいているさくらを抱き寄せて、首の後ろから手をまわし、顎を押してこちらを向かせる。さくらは上を向いて小狼の唇を受け入れた。
「んん……」
ちゅ、ちゅっ、と音をたてながらキスをすれば、突然バランスを崩したさくらが小狼の上にのしかかってきた。小狼は、さくらの胸で顔を塞がれる。もう慣れたが、本当に強引な術だ。さくらは、ごめんなさ…と謝ろうとして「あっ」と甘い声を上げた。小狼が顔をさくらの胸にうずめたまま、そのふくらみを両手でやさしく掴んだのだ。そしてさくらの胸元にもちゅ、ぢゅっとキスをする。
「ふわあん、離して」
さくらはソファの座面に手をついてからだを起こそうとするが、小狼がその背中を抱き戻した。
「さくらが言ったんだろ、ずっとえっちなことをしていれば、ラッキースケベが起きても関係なくなるって」
「ああん、そうだったあ。でもでも恥ずかしい」
「やめたら、もっと恥ずかしいことが起きるかもしれない」
「それは……!」
そうやりとりしている隙に、小狼はさくらの胸元のボタンを全部外して前をはだけさせた。朝アイスティで濡れて透けたときに見えたブラジャーだ。さくらのたわんと下に垂れた胸を懸命にささえている。小狼は手をひらいてそのブラジャーごと胸をつかみ、ゆっくりと揉んだ。さくらのからだが小さく震える。小狼の下半身もぞくっと震えた。
「外しても…いいか」
さくらは小さく首をたてに振った。おお、と小狼はこころの中で感嘆の声を上げた。普段のさくらだったら最低1回は悩むところだ。こんなに素直に頷いてくれるのか、ありがたい、ラッキーだ。
「これもやっぱり術のうちなのか?」
「なあに?」
なんでもない、とさくらの頬にキスをして、小狼はさくらをソファに座りなおさせた。
まず肩からストンとブラウスを脱がす。さくらが恥ずかしそうに俯いているので、髪の毛をそっと耳にかけてあげて顎を持ち唇を重ねる。さくらは甘えるように首に手をまわしてきて、しゃおらんくん、ともっとキスをねだるので、小狼は頭をかかえて、さくらの舌やくちびるを優しく食べた。
「ゆっくりやろうな」
「うん」
「日が落ちるまで、まだあと3時間くらいあるから……」
「そんなに?」
「たくさんえっちなことができる」
「ほえええ」
とさくらは目を丸くしながらも、顔をあかくして、ウンとかわいく頷いた。小狼は、はやる心を抑え、さくらのブラジャーのホックを外し、上半身を裸にした。うおおお、と心の中で叫び口を手で隠す。さくらを初めて抱いた時よりもひとまわりおおきくなっている乳房、つんと上を向いている乳首、その色は、小狼がこの世で一番美しいと思う薄ピンクだ。どきんどきんと心臓が高鳴っているのだろう、左胸がかすかに上下しているのがなんとも煽情的だ。むしゃぶりつきたい衝動を抑え、無言で眺めていると、さくらは横目で睨み、小狼くんも脱いで、と言う。あわててシャツの裾に手をかけると、さくらが
「わたしがするね」
とその手を握って止めた。
さくらから服を脱がされるのは初めてだ。小狼は妙にドキドキした。さくらも当然初めてだったし末っ子だから服を脱がせるのはヘタクソで、自分で言ったくせにあたふたするのがすごく愛しい。
「あ、腕を上にあげて?ああああげすぎだよ、ふう、抜けた、じゃあひっぱるね」
「ううっ首が絞まる」
「ほええごめん」
くすくす笑いながらどうにかこうにか脱がしてくれたが、その間もさくらは上半身はだかでむねをぷるんぷるんさせながら動いていたので、小狼は、これまたなんとラッキーな光景だと思って、はっ、やはり術の発動なのか?と凝視しながら心の中で考える。
「あまり見ないでえ」
「わかった。でも、隠さないでほしい」
さくらは小さく頷いて、恥ずかしそうに胸を隠していた腕を下ろした。小狼は、その横顔と、横乳を見ながらさくらの肩を抱き寄せた。
「あっ」
細い肩をもっと強く自分のほうへ抱き寄せてみた。すると、さくらの胸も両脇から寄せられ、むにゅっと谷間ができる様子が上から見える。すごい、いつも服の下でこんな風になっていたのか。肩においていた手を下にずらし、片方の乳首を恐る恐るぷるんと指で撫でた。するとさくらはびくっとからだを震わせて、もう、と困ったように笑いながら小狼を睨むが、またすぐに恥ずかしそうにまつげをふせる。怒られない。小狼はさくらの髪の毛に顔をうずめて、そこにキスを落としながら、ふたたび乳首を指でぷるぷると撫でる。するとまたびくびくっと腕の中のからだが跳ねる。だめだ。この上半身裸という非日常な格好をしながらただソファに座るだけという中途半端な状態が、なんとももどかしく、もうズボンの下で張り詰めたものが痛い。ただ服を脱いで日常をすごすというのはこんなに刺激的なのか。知らなかった。ラッキーだった。またやってもらおう。小狼は、指でそのピンク色の蕾をやさしくいじるたびにさくらがびくんと反応してくれるので夢中になり、指を動かしながら呼吸の荒くなってきたさくらの口に雨のようなキスを落とす。そして、そのままさくらをソファの座面に押し倒した。
「はあはあ、だめだよ、ゆっくりするって言ったのに……」
さくらが真っ赤な顔で胸を隠すので、小狼は、その手に自分の指を絡め恋人つなぎにして腕を開かせた。下を向いてたわんと垂れた胸もいいが、上を向いて小狼を誘うような胸も好きだ。もうガマンなんかできない。小狼は、さくらの胸に顔をうずめて夢中でそこらじゅうを食べまくった。甘そうな乳首は舌でレロっとなめてぱくっと口にくわえ、乳房のふくらんだところは唇でちゅうと吸う。
「…はんっ、あっ……はあっ」
さくらは何度も首を振って足をすりすりさせた。小狼はもどかしそうに、今日いちにち悩まされたさくらのスカートを剥ぐようにして脱がせた。そして股間に手を伸ばそうとしたとき、またさくらから手を掴まれた。
「小狼くんも……脱いで」
呼吸をもまだ落ち着かないまま、さくらが小狼のズボンのボタンに手をかける。それからチャックを下ろそうとしたが、何せ中身がパンパンに膨らんでいるのでひっかかって下りない。あれ、ごめんね、なんで?と言いながらチャックを触るさくらの手、それだけでもう逝ってしまいそうだ。小狼は、そこだけは自分で下ろし、あとはさくらに脱がせてもらった。
「わあっ」
さくらは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに小狼のボクサーパンツの様子を見て言った。
「……」
小狼は、今日何度目かの再会を果たしたさくらの白いレースの下着を感慨深く見つめた。やっと会えたなおまえ。でももうすぐにさよならだ。エントランスの植え込みでは、脱げかけていたおまえを見逃してやったが、もう覚悟しろ。小狼は昭和おやじのようなエロいセリフを頭に思い浮かべ、そのレースのひらひらへ手を伸ばす。するとまたもや。さくらからその手を握られた。
「ね、ゆっくりになってないよ、夕方までまだまだ時間があるのに……」
とさくらが覆いかぶさっている小狼を押し返そうとするので、
「大丈夫だ、日暮れまで何度でもやる」
一瞬きょとんとして、ふえ、そうなんだ……と顔を赤くしてあわあわしているさくらの口を、今度こそ濃厚なキスでふさいだ。
こんなに焦れたのは初めてだ。
小狼は自分でもみっともないほど呼吸を乱し、さくらの白いレースの下着を性急に引きずり下ろした。植え込みで一瞬見てしまった妄想がやっと現実のものになり、ボクサーパンツの中で小狼に肉棒が痛いほどに昂ぶっている。剥ぎ取られたさくらの下着はそのへんにぽいっと捨てられ、素っ裸になったさくらの左足は小狼の肩にかつがれた。
「はうっ…んんっ」
さくらの胸の頂点で誘うようにぷくんとしている蕾を再び口に含むと、さくらは、先ほどよりも大きな反応をした。マシュマロのようなふくらみを長い指で揉めば肩を上下させて息をあらげる。そんなさくらを見て、小狼もすっかり興奮してしまった。さくらも焦れていたのだろうか。小狼がさくらの顎に軽くキスをすると、さくらは、小狼の首に腕をからませすがりつくようにキスを求めてくる。
「ん……ん……はあっ」
しばらく舌どうしを絡ませあったあと、細くて白い首すじに吸い付いた。さくらがまたあんと甘い声をあげる。それから、ずっと晒していたさくらの股間に手を伸ばした。
「っっ……」
さくらが一瞬呼吸を止めた。小狼も息を呑んだ。なんでこんなに濡れているんだ。やはり、今日一日焦れて興奮していたのはさくらも同じだったのか。でなければこんな少しの愛撫でここまで愛液があふれたりしない。小狼はとろけるような喜びを感じつつ素早くボクサーパンツに手をかけた。一刻も早く、この泣いているように潤んでいる泉にこれを沈めてやらなければ。
「ままま待って」
さくらが小狼の手を掴んだ。本日何回目だろう。
「なんだ」
「あの……わたしにもらっきーすけべ、ください」
「?」
「それもさっきみたいにさせて?」
ときらきらした眼で小狼の腰を見つめた。そうか、これを脱がしたいのか。小狼はああ、と頷きさくらから手を離した。さくらはゆっくり起きて、ゆっくりとボクサーパンツに手をかけた。お約束として先端が布にひっかかり、それも大きな刺激となって小狼をぞくぞくさせる。さくらの遠慮がちな指づかいは微妙な愛撫となり、先走りが溢れる。
小狼の垂直にそりかえるそれが目の前に現れたとき、さくらは目を輝かせた。
「こんなに大きくなってるんだ、すごい……」
「そりゃな」
「これ……わたしとえっちをしたいからこうなってるの?」
「そうだよ。めちゃめちゃしたいから、こうなった」
「すごい!わたしまた『らっきーすけべ』頂きました」
と嬉しそうにさくらは笑う。こんな自分の中に突っ込まれようとしているグロテスクなものを見て、そんな可愛い顔でラッキーと言ってくれるのか。
「もうだめだ……」
「あっ」
小狼は今日、何度目かの下半身の衝動の限界を覚えた。ガバッとさくらの両足をかつぎ、股をこれでもかと広げさせて、その中心に顔を突っ込んだ。
「ひゃんっ!!!」
じゅじゅっと夢中でさくらの蜜をすすり、広げた舌で割れ目全体を舐めあげそして、皮を剥いた赤い核を舌先でつついたりころがしたり、それを何度も繰り返す。さくらは首をいやいやと振りながら、
「うっ、あうっ、しゃおらんくん、まっ、て、これなにっ……」
びちゃ、びちゃという音の方が大きくて、さくらの声は消え、ただの荒い呼吸音に変わっていく。ずっとこれをやりたくて今まではさくらが許してくれなかったから諦めていたが、今日はなんだか勢いで出来てしまった。ラッキーだ。のけぞったさくらの腰が上下したり暴れるので、それをガシッと両手で固定して、さらに責め続けた。するとさくらが、
「や、はああーーーんっ!!」
泣いているような切ない声を出して、おなかをビクンビクンと痙攣させた。小狼は、腕で顔をぬぐってゴムの袋を口で切り、素早く装着したかと思うと、まだひくひくしている花びらの入り口にあてがう。
「洪水だ」
「だって……」
「うん?」
「……」
「なんだ」
「勝手にあふれちゃう」
小狼は、さくらの口にちゅっとキスをした。どうして?と問えば、
「だって、しゃおらんくんとなかよしできて…はあん…うれし…か…らあんっ」
ぬる、ぬる、と小狼の先端とさくらの入り口をなじませるように何度か往復すればさくらがかわいい嬌声を上げる。さくらの声はもともと可愛いと思っていたしまわりもそう言っている。だが、自分と行為をしているときのこの声はなんと言えばいいのか。可愛いを通り越して胸が痛いほど愛しい。
(やばいな、なぜだろう今回すぐに終わってしまいそうだ……あ)
小狼は気付いた。あたりまえだ、今朝からずっと前戯をしてきたのだ。幾度も幾度も、ラッキーなスキンシップを。これだけ時間をかけてやっとさくらの中に入れる喜びは、すでにクライマックスで。ぞくっという興奮をやりすごし、張り詰めた小狼自身を先から少しずつ慎重に慎重に花びらの中にもぐりこませる。
「狭い…」
「はあっ、はあっ、おっきいいよお」
そうして、ズン、とすべてをさくらの中にうずめてしまうともう何も考えられなくなった。
「くっ」
「あ……っ!」
小さな悲鳴のような声をあげ、さくらはきゅううと背中をまるめ中もきゅううと締め上げる。大きな快感の波が小狼の下半身からせりあがってくると同時に、さくらもぷるぷるっと全身を震わせた。いつもだが、今日もさくらの中はとても熱くてとろけてしまいそうだ。
「さくら……さくら」
「あんっ……しゃおらんくんっ」
ぬぽつ、ぬぽっ、と竿をゆっくりと出し入れすればさくらも同じリズムで小さくのけぞる。そういえば、本格的に行為を始めてからは、あの強引なラッキースケベは顕現しなくなった。もう、こうやってさくらを抱けることそのものが大きな大きなラッキーということなんだろう。こんなにさくらは愛しくてかわいくて、気持ちが良い。幸せすぎる。
「んっ、んっ」
苦しそうなさくらの顔にはりついた髪の毛をそっと避けてキスをすると、どんなに息が乱れてもちゃんと小狼の舌を受け入れてくれる。さくらの上の口も下の口も、甘い汁がつつつと垂れる。
「好きだ、かわいい、好きだよ……」
「わたしも、すき、だいしゅきい」
きゅんきゅんと腹の奥が疼くようなこの感覚は、きっとセックスの快感ではなくて、さくらとこころがつながれた喜びだ。小狼は、さくらの両腕を自分の方へひっぱり、秘部を密着させると、そこから強く出し入れをして一番奥をぐりぐりと抉った。
「あああっ!おく?だ、だめっっ、んんっっんっ!!」
もともと余裕などないけれど、今日はぜんぜんダメだ、もう終わる……小狼は奥歯を噛み締めてみたが、何の役にも立たなかった。さくらのピンク色の壁が、小狼の硬いものを痛いほどしごきあげる。
「はっ……」
「だ、めぇ……!」
自分でも驚くほど背中がびくんと波をうち、小狼は勢いよくさくらの中で吐き出した。同時にさくらもぴんと足の指まで突っ張らせて、からだをびくびくと震わせた。真っ白だ。身体が快感で八つ裂きにされたようだった。小狼は、ごろんと床に仰向けになった。乱れきった呼吸が少し整ったとき、ふたり同時に「すごかった」と口にしたので、ふたりで笑った。
「でも、夕暮れまでまだあるね」
「どうしようか、休憩するか?」
さくらは、小狼の肩に、額を甘えるようにこすり付ける。そして、耳元で、
「このままもういっかい、しよ?」
とあまーく囁いたので、小狼はわざと、何を?と聞き返すと、さくらはほにゃああと幸せそうな笑みを浮かべて、
「はっぴー・すけべ」と言った。

 

***

 

「ただいま戻りました」
「おかえりなさい、秋穂さん。月曜日はいろいろ疲れたでしょう」
「いいえ、大丈夫です!お弁当、今日もとても美味しかったです」
「それは良かった。何か変わったことはありませんでしたか?」
秋穂は待ってましたとばかりに海渡のほうへ身を乗り出した。
「あの!李君とさくらさんに、昨日大丈夫だったか聞いたんです」
「ほう」
「そうしたら」
「はい」
「なぜかお二人とも、顔もつやつやして表情も明るくて、大丈夫だと!とても安心しました!」
「それは……」
海渡は、楽しそうにあはははははと笑った。
「よかった。あの方は今日が確か誕生日でしたから、良いプレゼントになったようだ」
「え?プレゼント?」
大変な事が起きると聞いていたのに、プレゼントだという海渡の言葉が矛盾していて、秋穂はきょとんとした。海渡は、秋穂のきれいにロールされた髪の毛を大切そうに撫でる。
「ぜひこちらにも同じ術にかけてもらいたいものですね、秋穂さんのおそばにいられるうちに……」
と小さく小さく呟き、髪の毛にキスを落とした。

おしまい

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